<増21号車>普通車指定席
主に繁忙期の増結用として用意された中間車です。鳴門・高知方に簡易運転台を、神戸・大阪方に洋式トイレ・男性用トイレ・洗面所を備えているのですが、そのためほかの中間車より座席が1列少ない定員56名となっています。
方転可能な設計になっており、予備車がいないHARD9100形の検査入場時には代走を務めることもあります。
■主要機器
エンジンは、コマツ製SA6D140H-1(450ps/2,100rpm)を1両あたり2基搭載しています。同時期に新潟鐵工所(現・新潟トランシス)で開発が進んでいた一般形気動車HARD4500形とエンジンなどの主要部品を共通化させることで、保守効率化と調達コスト低減を図っています。
足回りの要となる変速機は、中~高速域からの再力行性能の確保と変速ショックの軽減を狙い、変速1段・直結4段のパワーオン制御付きを選定。減速比を1.860というハイギヤードに設定することで、160km/h運転を可能としています。
余談ですが、気動車の最高速度は「エンジン最高回転数×減速比」で決まるため、馬力をいくら上げたところで最高速そのものが伸びるわけではありません。私たちがこのエンジンを採用したのは、大阪〜神戸間の複々線区間で電車に伍して加速し、明石海峡大橋上の33‰連続上り勾配を駆け上がるためです。鉄道趣味者の方には、よく「最高速度160km/hを実現するために450馬力のエンジンを……」とご紹介いただくのですが、160km/h運転においては性能上の「余白」にすぎないのが正直なところです。
■車体と車内設備
車体は、全長21,300mm、全幅2,845mmの軽量ステンレス構造とし、振り子動作時も車両限界に収まるよう裾絞りを大きくとっています。
その車体を彩るエクステリアデザインのテーマは「阿波藍と悠久の海」。平安の昔から珍重されてきた徳島の伝統工芸「阿波藍」をイメージした藍色のフィルムでステンレス車体を包み、海原を渡る風と波を3本のラインで表現しました。車端部のトイレ周りには、こちらも徳島名産である「すだち」の花をイラストであしらい、アクセントとしています。
室内は、普通車がシートピッチ980mmの4列シート、半室グリーン車は1,170mmピッチの3列シートというオーソドックスな構成ですが、HARD9100形(M1)にフリースペースを設けているのがささやかなこだわりです。4時間という長時間の乗車が見込まれるため、お客様が席を立ち、気分転換できる場所をどうしても作っておきたかったのです。

■さいごに
HARD9000系は、書類上の所属こそ本四淡路鉄道開発の三原車両基地になっていますが、保守管理をJR西日本に委託しているため、実態は網干総合車両所宮原支所が運行拠点になっています。
1998年の開業直後、北陸特急の681系や485系、ブルートレインの24系25形客車が顔を揃える夜の宮原で、静かに羽を休める藍色の気動車を見たとき「私たちのクルマは、日本を代表する特急列車たちの仲間になったのだ」と、胸が熱くなったのを鮮明に覚えています。
明石海峡を越え、本州と四国を結ぶという地域の夢。HARD9000系には、あの時代の私たちが注いだ情熱と技術のすべてが詰まっているのです。
そんなHARD9000系もデビューからまもなく30年を迎え、後継車の導入計画もちらほらと聞こえはじめました。仕方のないことではありますが、せめて最後のその瞬間まで、全力で、そして安全に走ってくれることを願うばかりです。
これらの内容は全て作者によるフィクションです。実在の企業・自治体等とは一切関係がありません。